作曲家のことば・湯山昭

「鮎」は若い生命、そして若い理想

ボクと少年少女合唱との最初のふれあいは、いまから10年ほどまえにさかのぼる。昭和38年度に行なわれた第18回芸術察の参加作品として、東京放送から委嘱をうけて作曲した「小さな目」 が、その貴重な機会をボクに与えてくれたのだが、初演の「ひばり児童合唱団」との心暖まる思い出は、いまなおボクの胸に生き生きと甦ってくる。

こうして生まれた「小さな目」 は、実はもうひとつの点で、それ以後のポクの作曲家生活に重要な影響を与えた忘れ難い作品なのである。というのは、ボクの合唱の分野における創作活動は、「小さな目」を原点として、そのスタートを切ったからである。「小さな目」以前にボクの合唱作品は存在せず、また「小さな目」が生まれなかったら、この「鮎の歌」も、もしかしたら生まれなかったかもしれない。

この10年の間、ボクは合唱作品を集中的に書いてきた。大規模な混声合唱曲「コタンの歌」が、一昨年(1970年)の芸術祭で大賞を受賞という嬉しい出来事もあったが、ボクは「小さな目」のもたらしたさまざまな収穫の重みを、いまひしひしと感じているところである。

遥かな四国徳島少年少女合唱団との熱気溢れるふれあい。東京荒川少年少女合唱隊との胸を打つ交歓。そしていま三島少年少女合唱隊という素敵な友を知って、ボクの胸ははずみにはずんでいる。

徳島では「四国の子ども歌」を、荒川|では「川と少年」を、そして三島ではいま「鮎の歌」を書きあげて、ボクと少年少女合唱の絆は更に深まった感じである。

多感な三島の少年少女たちよ。鮎は若い生命、そして若い理想。明日に生きる日本の少年少女たちの姿を鮎に託して、いま「鮎の歌」を高らかに歌いあげるとき………。

狩野川の水は滔々と然れ、いまこのとき、鮎が溯る。

(1972年9月 初演時のプログラムより)

湯山昭(作曲)1932年生まれの作曲家。東京芸術大学作曲科卒業。在学当時から頭角を現し、現在の日本音楽コンクールで二年連続で入賞。現代フランス音楽の影響を受けながらも難解にならず、分かり易いメロディーで青少年向けに多くのピアノ曲や合唱曲を提供している。

代表作に室内楽「マリンバとアルトサクソフォーンのためのディヴェルティメント」、ピアノ曲「こどもの国」「お菓子の世界」など。合唱曲では「コタンの歌」(1970年芸術祭大賞受賞作品)「四国のこども歌」「葡萄の歌」「鮎の歌」など組曲が多数。他に駿河を題材にした「駿河の歌」などもある。

童謡では「あめふりくまのこ」「おはなしゆびさん」「おはながわらった」などが有名。2013年、歌曲集「愛に会う街」「さくら伝説」を上梓。同時に歌曲選集(CD3枚組)を発表。

2013年京王電車、京王バス100年記念企画「京王沿線物語」において、久我山の顔として選ばれ、駅貼り、バス車内ポスターで紹介されています。

 

作詩家のことば・関根栄一

人と自然の讃歌

組曲の五編の詩のタイトルは、作曲の湯山さんと、合唱隊の杉山さんが相談して、きめたそうです。私が去年の9月、それをはじめて聞いた時、このテーマなら、すばらしい歌が生まれる。と、満々と血が充ちてくる感じを昧わったことを、忘れられません。

私は、組曲の演奏順序を、雉、わさび、猪、いちご、鮎、ときめて、詩の内容、形式もそれに見合って作ろうと考えました。だから、去年の11月1日、2日、11月17 日の三日間の取材も、その構想に従っていたしました。

合唱曲の形式は、こうでなければならないという、きまりはありません。しかし、私は、独唱の歌の場合より、ことばをわかりやすく、音楽的構成を考えて作るべきだ。と思っていましたが、この「鮎の歌」の詩で、私は曲の自然な展開と呼吸が合った、ことばの配置が出来た。と思っています。

詩人と作曲家の理想的な共同作業は、一緒に書くことではないし、意見の調整や妥協によって、表現をセーブすることではありません。何を歌おうとするか、組曲なら、組曲全体を通して貫ぬかれる「主張」なり「ねらい」なりが、まず一致することが大切です。その場合、理想的には、毛ほどのすき間もなく一人の人聞が思うように一致すれば、いうことはありません。こんどの場合、湯山さんと私は、まるで一人の人間のようになったのです。だから、去年の取材が終って、十日間の聞に、詩は噴出するように書けました。しかも演奏順序のとおりに、すらすらと書けたのです。こんなすばらしいことは、一生のうちそう何度もないでしょう。

それから、今年に入り、作曲の作業にあわせて約1ヶ月、改稿し、完壁を期しました。三島、伊豆のさわやから風物、人々の心、この組曲全体を通して流れているのは、人と自然の讃歌です。今こそ、鮎の歌のふるさとの第一声を、晴々と歌いひびかせて下さい。

(1972年9月 初演時のプログラムより)

関根栄一は、1926年生まれ2005年没の童謡詩人で作詞家。代表作「おつかいありさん」(團伊玖磨作曲)など童謡を中心に数多くの作品がある。日本童謡賞、赤い鳥文学賞特別賞受賞。湯山昭氏とのコンビでは「鮎の歌」をはじめ「葡萄の歌」「海と祭りと花の歌」など多くの作品を手がけている。「鮎の歌」の歌詞は絶品で無駄のない引き締まった描写はこの曲の重要な要素である。

鮎の遡上する姿を「きらめく タチ(太刀)」と簡潔に言い切る表現力は誰しも感銘を受けることとでしょう。また、狩野川の源流を辿る描写では「猫越(ねっこ)、日野沢(ひのさわ)、舟原(ふなばら)、二の小屋(にのこや)、吉奈(よしな)」など連続する地名が効果的に使用されている。