一枚の絵で学ぶ美術史 カラヴァッジョ「聖マタイの召命」宮下規久郎
ちくまプリマー新書
一番下の写真をご覧ください。暗い背景の中から浮かび上がる数人の男たち。目立ちませんが向かって一番右側に赤い袖の手を伸ばしているのがイエスです。イエスがこの部屋のテーブルの周りにいる男たちからマタイという徴税吏を、弟子として呼んでいるところです。
典拠はマタイによる福音書 15ー9~13 マルコ2ー13~17、ルカ5ー27~32です。若干の異動はありますが、徴税人だったマタイを通りかかったイエスが「私と一緒にきなさい」と突然呼び出し、マタイがそのままついて行った、という話です。
カラヴァッジョのこの絵は有名で、私も図版で何度も見たことがあります。「マタイの召命」というと必ず示される絵の1枚でもあります。イエスは影の中にいて、その伸ばした腕と指で「あ、そこにイエスが」と気がつくような状態です。とても主人公の一人とは思えません。カラヴァッジョのよく使う影と光のコントラストの方が目立つ感じです。
イエスは当時みんなから差別され、憎まれていた徴税人のマタイを指差すことで力強く呼び出します。徴税人は支配者ローマのために税金を徴収しますが、決して民衆にはどれくらいが税金なのかは明示されません。要するに彼らは不当な金額をローマの名によって徴収し、自分の懐を肥やしていました。ユダヤ人にとっては敵であり、自分達を打ち負かした憎き敵の手先となって、不法に私服を肥やしている連中でした。金は儲けていますが、憎しみの的になっている人たちでした。その、徴税人であったマタイを、イエスは自分の弟子として「あなたに言う、来なさい」と自分の元に呼んだのでした。
で、有名なこカラヴァッジョの絵です。お金を集めている机の所にいる男たち。著者はこの絵の「誰が」マタイなのか、と言う疑問を提出します。「私?」と胸に手を当てている男?その奥の男?そう言われれば、みんなマタイに見える。解決は読んでのお楽しみ。
でもこのような世界的に有名な傑作にも、疑問は持とうと思えば持てるのです。それが「研究」なのでしょう。学問の面白さに出会うためにもご一読を。


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